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性同一性障害と性転換手術

性同一性障害

性同一性障害は、「形態的には完全に正常で、自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知している一方、人格的には自分が別の性に所属していると確信している状態」と定義される。これは身体と脳の性の不一致によって起こり、病気とされる。しかし病気といっても一般の病気とは様相が異なる。多くの病気においては正常な状態から異常な状態になったものを、正常またはそれに近い状態に戻すことを治療というが、一部の病気(奇形など)においては、もともとが異常の状態であり、それを正常に近い状態にすることが治療である。性同一性障害は後者である。

そしてその治療として性転換手術が公に、199810月埼玉医科大学総合医療センター、19999月岡山大学医学部精神神経科において行われた。この種の手術は、今に始まったわけではなく、ずっと昔から行われていたらしい。ただ、あくまでも闇の世界のことであり、正常な医療の世界とは無縁の存在であった。今回はただの趣向の問題ではなく、病気として捉えたところが、大きな相違点である。この性同一性障害者は、女性では約10万人に1人と推定されるが、男性の場合、約3万人に1人とされる。

 さて、「性同一性障害」と一口にいっても、実際にはその程度には幅があり多様である。

主要な性同一性障害(広義の性同一性障害)

変性症<transsexualism>

変性症は、性同一性に最も大きな障害を持つ症候群である。日常では別の性として生活  することだけでは満足できず、変性願望と性転換へのさまざまな要求がある。

異性装症<transvestism>

異性装症は異性装(異性の装身具類を―男性であれば女性の衣類や装身具類、女性であ  れば男性の衣類や装身具類―身につけること)により性的快感や興奮を得る性的倒錯の  一形態で、その達成と保持のため頻繁に異性装をせずにはいられないという感覚状態で  ある。しかし、同性愛傾向や変性願望はもたない。

同性愛<homosexualism>

性同一性障害を顕著に示す同性愛では、異性性への過度の憧れと讃美の念をもち、異性  に同一化してしまうが、自分の身体に変更を加えたいなどとは思わない。

両性愛<bisexualism>

性対象選択に問題を持つ性同一性障害の一形態で、社会生活上における性別役割を十分  にはたしているが、性対象選択が一定していない。治療を求めることはない。                                                                                               

なぜ性同一性障害が起こるのか

性同一性障害が起こる原因はよくわかっていないが、かつては環境説(育て方によるとする)が支配的だった。現在では細胞の遺伝子レベルでの異常、性器の形態異常、思春期のホルモン異常、脳の機能異常、ホルモンシャワー説がある。一番有力な説は「ホルモンシャワー説」である。これは男女区別のない分化する前の段階(胚子期)や胎児期に、外部からのホルモン投与(流産防止のステロイドなど)によりホルモンバランスがくずれ、身体と脳の性の不一致が起こるとする。

実際、流産防止目的で用いられるホルモンを妊婦に投与すると、その胎児がXX染色体をもつ女児であるとき外性器が男性化してしまう、という報告や、女性の身体をもって生まれたが自分は男である、と感じる性別違和が生じる場合がある、という。

 そもそも性の分化は様々な段階を経て起こる。まず、精子と卵子が受精した瞬間に、染色体的な性(XXXY)が決まる。また、胎生8週目には身体の性別の、および5〜8ヶ月には脳の性別の、それぞれホルモンの働きによる性分化の臨界期がある。それが滞りなくプロセスした時、身体の性別と脳・心の性別が一致する。

                        染色体的な性の決定                      

                               

                          両性の内性器

                                  

                   男性器発達        女性器発達              

                                        

              男性ホルモンの分泌        

                                      

              男性脳へ分化           女性脳へ分化  

治療法としての性転換手術

性同一性障害の治療法として、性転換手術が承認されている。性転換手術は、タイや台湾などのアジア諸国や欧米においては、普通の医療行為として定着している。一方、日本では、男性3人に精巣摘出の手術を営利目的に実施した産婦人科医が、優生保護法(現・母体保護法)の「故なく生殖を不能にしてはならない」との条文に違反したとして、1969年に東京地裁で有罪判決をうけ、1970年に東京高裁で判決が確定して以来、長年タブー視されてきた。このため、アジア諸国や海外で性転換手術をうける人が現れている。

このような背景のもとに、埼玉医大の倫理委員会が、手術の許可申請が出されていた女性患者の性転換手術について「手術後の精神面でのサポートで適切な対応をする」との条件付きで承認した(1998.5.12。「性転換手術を承認」朝日新聞1998.5.13)。性転換手術については、同大倫理委員会が1996年、この女性を含む2人の患者の症状を病気としたうえ、手術は「正当な医療行為」と認定し、翌年に日本精神神経学会が同障害の診断と治療のガイドラインを策定し、厚生省も医療行為として認めた。

このガイドラインでは、精神カウンセリングとホルモン治療を経て、それでもなお強い違和感を訴える患者に最終的な治療手段として性転換手術を行うこととしている。また手術の適否には治療判断の正確さが求められることから、手術は精神科や形成外科など複数の専門家から成る医療チームを備えた医療機関での実施に限定することなどを定めている。

実際の性転換手術であるが、交通事故などで損傷した部位の再建手術の技術が応用され、まず、乳房の切除、卵巣や子宮などの摘出、また男性器形成の準備として尿道変更手術が行われる。これらの手術がうまくいくと、約半年後に患者本人の上腕部などから血管や神経ごとに取った皮膚や皮下組織で男性器を形成する。だが、生殖機能はない。「性転換」といっても外科手術で外見上の特徴を変えるだけであり、生物学的な「性」を転換するわけではない。しかし、埼玉医科大総合医療センター形成外科の原科孝雄教授は「患者にとって男性器は男性としての性を認識する象徴。したがって、心と身体のアンバランスを埋めることで人間性の回復に手を貸すものと思う」と、性転換手術の意義を語っている。

性転換手術における問題点

性転換手術は第一歩であり、フォローが不可欠である。実際、性同一性障害をもつ人は偏見や差別を恐れ、家族や友人にも本当の自分を隠し、苦しむ人が多いという。しかも体と違う「性」で暮らせば、学校でのいじめや就職・雇用差別など厳しい現実が待ち受け、水商売を余儀なくされる人も多い。

また、性転換手術を受けた患者の自殺率が高いとのデータも出されている。さらに、戸籍の変更は認められておらず、法的には「旧姓」が残る。パスポートや公式文書の名前を望む性にふさわしい呼び名に変えることもできない。精神的な不安を解消する仕組みや性転換した人を社会的に認める法律の整備を進めるべきである。

埼玉医大は、社会的に全く認められていなかった性同一性障害の問題を表に出した。しかし、現状はそうした「病気」の存在が知られるようになっただけのようだ。何をもって「性転換手術」の成功を判断するのか。人間の生き方と手段としての医療の関わり方をもう一度考え直していくべきではなかろうか。

  結語                                                                                                                                                                       

男と女の境目は多くの人が思っているほどはっきりとはしていないのではなかろうか。魚や両性類には、環境に応じて性転換する種類があり、人間に一番近い動物であるゴリラやチンパンジーには日常的に同性愛が見られる、という話を聞いたこともある。性の問題はとても難しい。そして、私たちの社会は性別にこだわりすぎている気がする。性転換手術はこうした問いを投げかけているようにも思われる。

よって、日本国内で偏見のない議論が十分に行なわれれば、性転換についての理解や「日本人の性意識」についての考察がもっと進められる良い機会になるのではなかろうか。一般の人々が納得するまでには、まだまだ時間はかかるだろうが、いかに少数派であったとしても、性同一性障害に苦しむ人々が自分らしく生きる権利を大事にしていくべきだと思う(cf. 山内俊雄・性転換手術は許されるのか(1999)、「デンマークの性同一性障害の実例を紹介」日本テレビ1999.3.22)